。殊に今晩の御趣意を承《うけたま》わりまして、主人もお話の選択によほど苦しんでいたようでございました。しかし支那の本国ではともかくも、日本では昔から『剪燈新話』がよく知られて居りまして、これは御承知の通り、明《みん》の瞿宗吉《くそうきつ》の作ということになって居ります。その作者に就いては多少の異論もあるようでございますが、ここでは普通一般の説にしたがって、やはり瞿宗吉の作といたして置きましょう。
今まで皆さんがお話しになったものとは違いまして、この『剪燈新話』は一つのお話が比較的に長うございますから、今晩はそのうちの『申陽洞記《しんようどうき》』と『牡丹燈記《ぼたんとうき》』の二種を選んで申し上げることにいたします。馬琴《ばきん》の『八犬伝』のうちに、犬飼現八《いぬかいげんぱち》が庚申山《こうしんざん》で山猫の妖怪を射る件《くだり》がありますが、それはこの『申陽洞記』をそっくり書き直したものでございます。一方の『牡丹燈記』が浅井了意《あさいりょうい》の『お伽《とぎ》ぼうこ』や、円朝《えんちょう》の『牡丹燈籠』に取り入れられているのは、どなたも能《よ》く御存じのことでございましょう。前
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