りでなく、幾千万年でも長生きが出来るのです」
腰に着けている嚢《ふくろ》から一薬をとり出して勿体《もったい》らしく与えると、他の妖怪どもも皆その前にひざまずいて頼みました。
「あなたは実に神のようなお人です。その長生きの仙薬というのをどうぞ我々にもお恵みください」
「よろしい。おまえらにも分けてあげよう」
李は嚢にあらん限りの薬をかれらにも施すと、いずれも奪い合って飲みましたが、それは怖ろしい毒薬で、怪鳥や猛獣を仆《たお》すために矢鏃《やじり》に塗るものでありました。その毒薬を飲んだのですから堪まりません。かの大猿をはじめとして、他の妖怪どもも片端から枕をならべてばたばたと倒れてしまいました。仕済ましたりとあざわらいながら、李は壁にかけてある宝剣をとって、大猿小猿あわせて三十六匹の首をことごとく斬り落しました。
残る三人の美女も妖怪のたぐいであろうと疑って、李はそれをも殺そうとすると、みな泣いて訴えました。
「わたくしどもは決して怪しい者ではございません。不幸にして妖怪に奪い去られ、悲しい怖ろしい地獄の底に沈んでいたのでございます。その妖怪を残らず亡ぼして下さいましたのですから、わたくしどもに取りましてあなたは命の親の大恩人でございます」
そこで、だんだん聞いてみると、その一人はかの銭翁の娘で、他のふたりもやはり近所の良家の娘たちと判りました。李はこうして妖怪を退治して、不幸の娘たちを救ったのですが、何分にも深い穴の底に落ちているのですから、三人を連れて出る術《すべ》がありません。これには李も思案にくれているところへ、いずこよりとも知らず、幾人の老人があらわれて来ました。いずれも鬢《びん》の毛を長く垂れて、尖った口を持った人びとで、ひとりの白衣の老人を先に立てて、李の前にうやうやしく礼拝しました。
「われわれは虚星《きょせい》の精で、久しくここに住んで居りましたが、近ごろかの妖怪らのために多年の住み家を占領されてしまいました。しかも我々はそれに敵対するほどの力がないので、しばらくここを立ち退いて時節の来るのを待っていたのでございますが、今日あなたのお力によって、かれらがことごとく亡びましたので、こんな悦ばしいことはございません」
老人らはその謝礼として、めいめいの袖の下から、金や珠《たま》のたぐいを取出して献《ささ》げました。
「おまえらもすでに神通力《じ
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