んだ。
 時の人は姚の明察に服して、包孝粛《ほうこうしゅく》の再来と称した。
(包孝粛は宋時代の明判官《めいはんがん》で、わが国の大岡越前守ともいうべき人である)。

   鬼の贓品

 陝西《せんせい》のある村に老女が住んでいた。そこへ道士《どうし》のような人が来て、毎日かならず食を乞うと、老女もかならず快《こころよ》くあたえていた。すると、ある日のこと、かの道士が突然にたずねた。
「ここの家《うち》に妖怪の祟りはないか」
 老女はあると答えると、それではおれが攘《はら》ってやろうといって、道士は嚢《ふくろ》のなかから一枚のお符《ふだ》を取り出して火に焚《や》くと、やがてどこかで落雷でもしたような響きがきこえた。
「これで妖怪は退治した」と、彼は言った。「しかしその一つを逃がしてしまった。これから二十年の後に、お前の家にもう一度禍いがおこる筈だから、そのときにはこれを焚け」
 かれは一つの鉄の簡《ふだ》をわたして立ち去った。それから歳月が過ぎるうちに、老女の娘はだんだん生長して、ここらでは珍しいほどの美人となった。ある日、大王と称する者が大勢の供を連れて来て、老女の家に宿った。
「お
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