うな形跡も見られないので、丁もその処分に困って頻りに苦労しているのを、妻の韓氏《かんし》が見かねて訊いた。
「あなたは一体どんな事件で、そんなに心配しておいでなさるのです」
丁がその一件を詳しく説明すると、韓氏は考えながら言った。
「もしその嫂が夫を殺したものとすれば、念のために死骸の脳天をあらためて御覧なさい。釘が打ち込んであるかも知れません」
成程と気がついて、丁はその死骸をふたたび検視すると、果たして髪の毛のあいだに太い釘を打ち込んで、その跡を塗り消してあるのを発見した。それで犯人は一も二もなく恐れ入って、裁判はすぐに落着《らくぢゃく》したので、丁はそれを上官の姚忠粛に報告すると、姚も亦《また》すこし考えていた。
「お前の妻はなかなか偉いな。初婚でお前のところへ縁付いて来たのか」
「いえ、再婚でございます」と、丁は答えた。
「それでは先夫の墓を発《あば》いて調べさせるから、そう思え」
姚は役人に命じて、韓氏が先夫の棺を開いてあらためさせると、その死骸の頭にも釘が打ち込んであった。かれもかつて夫を殺した経験をもっていたのである。丁は恐懼《きょうく》のあまりに病いを獲《え》て死
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