判りません」
それから五、六日を過ぎないうちに、王確は酔って襄《じょう》という所へ出かけた。帰りには日が暮れて、趙《ちょう》という村まで来かかると、路のまんなかで兄の王に出逢った。とうに死んでいる筈の兄は、地に筋を引いて一々に弟の罪状をかぞえ立てた上に、馬の策《むち》をふるって続け打ちに打ち据えたので、さすがの乱暴者も頭を抱えて逃げ廻って、僅《わず》かに自分の家へ帰ることが出来た。
燈火《あかり》の下でよく視ると、彼の着物はさんざんに破れているばかりか、背中一面が青く腫れあがっていたので、彼はいよいよおびやかされた。翌朝かれは兄の画像の前に百拝して、以来は決して酒を飲まなくなった。[#地から1字上げ](同上)
古廟の美人
広寧《こうねい》の閭山公《ろざんこう》の廟は霊験いやちこなるをもって聞えていた。殊にその木像が甚だ獰悪《どうあく》である上に、周囲には古木うっそうとして昼なお暗いほどであるので、夜は勿論、白昼でもここに入るものは毛髪おのずから立つという物凄い場所であった。夜が更けると、神か鬼か知らず、廟内で罪人を拷問《ごうもん》するような声がきこえるという噂も伝えられ
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