は人をおそうばかりであった。更に行くこと数里の後、※[#「馮/几」、第4水準2−3−20]は土地の者に訊いた。
「あれはなんだ」
「馬絆です」
「馬絆とはなんだ」
土地の者は手をふって答えない。三更《さんこう》の後に次の駅にゆき着くと、駅の役人が迎いに出て来て、ひどく驚いたように言った。
「なんという大胆なことを……。夜中《やちゅう》に馬絆の虞《おそ》れあるところを越えておいでになるとは……」
「馬絆とはなんだ」と、※[#「馮/几」、第4水準2−3−20]はまた訊いた。
「馬黄精《ばおうせい》のことでございます。これに逢う者はみな啖《く》われてしまいます」
馬絆といい、馬黄精といい、いずれも蛟《みずち》の種類であるらしい。[#地から1字上げ](遂昌雑録)
廬山の蟒蛇
廬山《ろざん》のみなみ、懸崖《けんがい》千尺の下は大江に臨んでいる。その崖の半途に藤蔓《ふじづる》のまとった古木があって、その上に四つの蜂の巣がある。その大きさは五|石《こく》を盛る瓶《かめ》の如くで、これに蔵する蜂蜜はさぞやと察せられたが、何分にも嶮峻《けんしゅん》の所にあるので、往来の者はむなしく睨んで
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