着いた時に、駅の役人が注意した。
「きょうももう暮れました。江のほとりには馬絆《ばはん》が出ます。この先へはおいでにならないがよろしゅうございましょう」
※[#「馮/几」、第4水準2−3−20]はその注意を肯《き》かなかった。彼は良い馬を選んで、土地の者を供に連れて出発した。行くこと三、四十里、たちまちに供の者は馬から下りて地にひざまずき、しきりに何か念じているようであった。
その言葉は訛《なま》っているので、何をいうのか能《よ》く判らないが、ひどく哀しんで憫れみを乞うように見受けられたので、※[#「馮/几」、第4水準2−3−20]はどうしたのかと訊ねると、彼は手をうごかして小声で説明した。われわれは死ぬというのである。
そこで、※[#「馮/几」、第4水準2−3−20]も馬をくだって祷《いの》った。
「わたしは万里の遠方から来て、ここに仕官の身の上である。もし私に天禄があるならば、死ぬことはあるまい。天禄がなければ、あえて死を恐るるものではない」
時に月のひかり薄明るく、小さい家のような巨大な物がころげるように河のなかにはいった。風なまぐさく、浪もまたなまぐさく、腥気《せいき》
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