「わたくしは冥府へ行った時に、あなたを見ました」と、張の児は言った。「あなたは宮殿の角の銅《あかがね》の柱につながれて、鉄の縄で足をくくられていました。獄卒が往ったり来たりして、棒であなたの腋《わき》の下を撞《つ》くと、血がだらだらと流れました。わたくしは帰る時に、あの和尚さまはなんの罪で呵責《かしゃく》を受けているのですかと訊きましたら、あれは斎事にあたって経文《きょうもん》をぬかして読むからだと言いました」
 僧は大いにおどろいた。彼は腋の下に腫物を生じて、三年も癒えないのであった。そんなことを知ろう筈のない張の児に言い当てられて、彼は怖ろしくなった。彼はそれから一室に閉じ籠って毎日怠らずに経を呼んでいると、三年の後に腫物はおのずから癒えた。[#地から1字上げ](同上〉

   馬絆

 吏部尚書《りぶしょうしょ》の※[#「馮/几」、第4水準2−3−20]夢弼《ひょうむひつ》、この人は八蕃《はちばん》の雲南|宣慰司《せんいし》の役人からしだいに立身したのである。この※[#「馮/几」、第4水準2−3−20]氏の話に、かつて八蕃に在任の当時、官用で某所へ出向いた。
 途中のある駅に
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