ので、夫婦はおどろいて叫んだ。
「わたしの児は果たして生き返ったぞ」
瓦を壊《こわ》して、棺をかつぎ出して、わが家へ連れ帰ると、その児は湯をくれ、粥《かゆ》をくれと言った。暫くして、彼は正気にかえって話した。
「はじめ冥府《めいふ》へ行った時に、わたしは冥府の王に訴えました。なにぶんにも父母が老年で、わたしがいなくなると困ります。その余命をつつがなく送って、葬式万端の済むまでは、どうぞ私をお助けくださいと願いました。王も可哀そうに思ってくれたと見えて、それではお前を帰してやる。帰ったらば親父に話して、今後は鶉捕りの商売をやめろと言え。そうすれば、おまえの寿命も延びることになる」
張はそれを聞いて、即刻に殺生のわざをやめることにした。彼は網や罠《わな》のたぐいを焚《や》いてしまって、その児を連れて仏寺《ぶつじ》に参詣した。寺に呂《りょ》という僧があった。年は四十ばかりで、人柄も行儀も正しそうに見えた。彼は都に近い寺で綱主《こうす》となった事もあるという。その僧の前に出て、張の児は訊いた。
「あなたも生き返っておいでになったのですか」
「わたしは死んだ覚えはない」と、僧は怪しんで答えた
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