は食べることが出来ませんから、お婆さんと相談してここの家《うち》へ売られて来ることになったのでございます」
 さらに桂庵婆をよび出して取調べると、その申し立てもほぼ同じようなもので、広備橋《こうびきょう》のほとりに迷っている女をみて、自分の家へ連れて来たのであると言った。なにしろ死んだ女が生き返ってこういうことになったのであるから、役人もその裁判に困って、先夫から現在の主人に相当の値《あた》いを支払った上で、自分の妻を引き取るがよかろうと言い聞かせたが、耿の方が承知しない。いったん買い取った以上は、その女を他人に譲ることは出来ないというので、さらに御史台《ぎょしだい》に訴え出たが、ここでも容易に判決をくだしかねて、かれこれ暇取《ひまど》っているうちに、問題の女は又もや姿を消してしまった。
 相手が失せたので、この訴訟も自然に沙汰やみとなったが、女のゆくえは遂に判らなかった。それから一年を過ぎずして、主人の耿も死んだ。[#地から1字上げ](同上)

   盂蘭盆

 撫《ぶ》州の南門、黄柏路《こうはくろ》というところに※[#「澹−さんずい」、第3水準1−92−8]《たん》六、※[#「澹−
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