僕二人に二匹の馬をひかせて送らせた。途中も無事で、まだ夜半にならないうちにかの呂氏の家にゆき着くと、家の者は出で迎えて不思議そうに言った。
「近頃この辺にはいろいろの化け物が出るというのに、どうして夜歩きをなすったのです」
二人はここへ来たわけを説明して、鞍から降り立とうとすると、馬も僕も突っ立ったままで動かない。
すぐに飛び降りて燈火《あかり》に照らしてみると、人も馬も姿は消えて、そこに立っているのは、二本の枯れた太い竹と、二脚の木の腰掛けと唯それだけであった。竹も木も打ち砕いて焚かれてしまったが、別に怪しいこともなかった。
それから五、六カ月の後、ふたたび先度の北門外へ行くと、そこは空き家で、主人らしい者は住んでいなかった。[#地から1字上げ](異聞総録)
疫鬼
紹興三十一年、湖州の漁師の呉一因《ごいちいん》という男が魚を捕《と》りに出て、新城柵界の河岸に舟をつないでいた。
岸の上には民家がある。夜ふけて、その岸の上で話し声がきこえた。暗いので、人の形はみえないが、その声だけは舟にいる呉の耳にも洩れた。
「おれ達も随分ここの家《うち》に長くいたから、そろそろ立ち
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