て、橋の下で洗濯をするのです。そうして往来のすきをみて、その瓶を籃に入れて、上から洗濯物をかぶせて帰るのです」
 獄卒は又その通りにすると、果たして種々の高価の品を見つけ出した。彼はいよいよ喜んで獄内へ酒を贈った。すると、ある夜の二更《にこう》(午後九時―十一時)に達する頃、賊は又もや獄卒にささやいた。
「わたしは表へちょっと出たいのですが……。四更(午前一時―三時)までには必ず帰ります」
「いけない」と、獄卒もさすがに拒絶した。
「いえ、決してお前さんに迷惑はかけません。万一わたしが帰って来なければ、お前さんは囚人《めしゅうど》を取り逃がしたというので流罪《るざい》になるかも知れませんが、これまで私のあげた物で不自由なしに暮らして行かれる筈です。もし私の頼みを肯《き》いてくれなければ、その以上に後悔することが出来るかも知れませんよ」
 このあいだからの一件を、こいつの口からべらべら喋《しゃ》べられては大変である。獄卒も今さら途方にくれて、よんどころなく彼を出してやったが、どうなることかと案じていると、やがて檐《のき》の瓦を踏む音がして、彼は家根《やね》から飛び下りて来たので、獄卒は先
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