ると共に、その毒を消す法をも知っていたらしいが、その法は伝わっていない。

   重要書類紛失

 宋の紹興の初年、甫田《ほでん》の林迪功《りんちゅうこう》という人は江西の尉《じょう》を勤めていたが、盗賊を捉えた功によって、満期の後は更に都の官吏にのぼせられることになっていた。
 そのころ臨安府には火災が多かったので、官舎に寄寓《きぐう》している人びとは、外出するごとに勅諭《ちょくゆ》その他の重要書類を携帯してゆくのを例としていた。林《りん》も御用大事と心得ている人物であるので、外出する時には必ず重要書類を懐中して出て、途中でも二、三度ぐらいは検《あらた》めることにしていた。
 それで最初は無事であったが、ある時それが紛失したので、彼は三万銭の賞を賭けてその捜査を命じると、たちまちにそれを届けて来るものがあった。それで安心すると、又もや紛失した。又もや賞をかけると、又もや直ぐに届けて来た。こういうことが三度も四度も繰り返されたので、本人も怪しみ、他の者も不審をいだくようになった。これが果てしもなしに続くときは、彼の私財が尽きてしまうか、あるいは重要書類をうしなった罪に服するか、二つに一
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