ずいて立ち去った。親たちもそれを聞いて今更のように驚いたが、乞食はもう再び姿をみせなかった。
娘は生長して管営指揮使の妻となり、のちに呉《ご》の燕王《えんおう》の孫娘の乳母となって、百二十歳の寿を保った。
小龍
宗立本《そうりゅうほん》は登《とう》州|黄《こう》県の人で、父祖の代から行商を営《いとな》んでいたが、年の長《た》けるまで子がなかった。宋の紹興二十八年の夏、帛《きぬ》のたぐいを売りながら、妻と共に※[#「さんずい+維」、第3水準1−87−26]《い》州を廻って、これから昌楽《しょうらく》へ行こうとする途中、日が暮れて路ばたの古い廟に宿った。数人の従者は柝《き》を撃って、夜もすがらその荷物を守っていた。
夜があけて出発すると、六、七歳の男の児が来てその前にひざまずいた。見るから利口そうな小児である。宗は立ちどまって、お前はどこの子かとたずねると、彼ははきはきと答えた。
「わたくしは武昌《ぶしょう》の公吏の子で、父は王忠彦《おうちゅうげん》と申しました。運悪く両親に死に別れて、他人の手に育てられていましたが、ここへ来る途中で捨てられました」
宗は憐れんで彼を養う
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