二、三度往復して、徐は大金儲けをしましたが、それから一年ほども間を置いて訪ねてゆくと、もう其の家は見えませんでした。
あんな大きい邸宅がどこへ移転したのかと、近所の里の人びとに聞き合わせると、初めからそんな家のあったことさえも知らないというのでした。
鬼国
梁《りょう》の時、青《せい》州の商人が海上で暴風に出逢って、どことも知れない国へ漂着しました。遠方からみると、それは普通の嶋などではなく、山や川や城もあるらしいのです。
「どこだろう」
「そうですねえ」と、船頭も考えていました。「わたし達も多年の商売で、方々へ吹き流されたこともありますが、こんな処へは一度も流れ着いたことがありません。なんでもここらの方角に鬼国《きこく》というのがあると聞いていますから、あるいはそれかも知れません」
なにしろ訪ねてみようというので、人びとが上陸すると、家の作りや田畑のさまは中国とちっとも変りません。ただ変っているのは、途中で逢う人びとに会釈《えしゃく》しても、相手はみな知らない顔をして行き過ぎてしまうのです。むこうの姿はこちらに見えても、こちらの姿はむこうに見えないらしいのです。
や
前へ
次へ
全24ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング