いには息が続かなくなって、実に弱り果てました。その夢が醒めると、火を吹いていた口唇《くちびる》がひどく腫《は》れあがって、なんだか息が切れて、十日《とおか》ばかりは苦しみました」
それを聞いて、張はいよいよ不思議に思いました。
劉はこういう奇術を知っているために、河南の尹《いん》を勤めている張全義《ちょうぜんぎ》という人に尊敬されていましたが、あるとき張全義が梁《りょう》の太祖《たいそ》と一緒に食事をしている際に、太祖は魚の鱠《なます》が食いたいと言い出しました。
「よろしゅうございます」と、張全義は答えました。「わたくしの所へまいる者に申し付ければ、すぐに御前へ供えられます」
すぐに劉を呼び寄せると、劉は小さい穴を掘らせ、それにいっぱいの水を湛《たた》えさせて、しばらく釣竿を垂れているうちに、五、六尾の魚をそれからそれへと釣りあげました。その不思議に驚くよりも、太祖は大いに怒りました。
「こいつ、妖術をもって人を惑わす奴だ」
背を打たせること二十|杖《じょう》の後、首枷《くびかせ》手枷《てかせ》をかけて獄屋につながせ、明日かれを殺すことにしていると、その夜のうちに劉は消えるよ
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