時、劉が町の人に銀を売ると、その人は満足に値《あた》いを支払わないのです。そこで、劉は張と連れ立ってその催促にゆくと、彼はそれを素直に支払わないばかりか、種々の難癖《なんくせ》をつけて逆捻《さかね》じに劉を罵りました。劉は黙ってそのまま帰って来ましたが、あとで張に話しました。
「彼は愚人で道理を識らないから、私がすこしく懲らしてやります。さもないと、土地の神霊のために重い罰を受けるようになりますから、彼を懲らすのは彼を救うがためです」
 どんな事をするのかと見ていると、劉はその晩、燈火《あかり》を消した後、自分の寝床の前に炭火をさかんにおこして、なにか一種の薬を焼きました。張は寝た振りをして窺っていると、暗いなかに一人の男があらわれて、頻《しき》りにその火を吹いています。よく見ると、それはかの町の人でありました。彼は夜の明けるまで火を吹きつづけて、その姿はいつか消え失せてしまいました。
 その後に、張が町の人の家をたずねると、彼はひどく弱っていました。
「どうも不思議な目に逢いました。このあいだの晩、夢のうちに誰かが来てわたくしを何処へか連れて行って、夜通し火を吹かせられましたが、しま
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