て、かれは猴を捨てましたが、もう半分ほどは食われていました。
 その明くる年、李遇の一族は誅せられました。故老の話によると、郡中にはこの怪物が居りまして、軍部に何か異変のあるたびに、かれは姿をあらわします。それが出ると、城中いっぱいに忌《いや》な臭いがするそうです。反乱を起した田※[#「君+頁」、174−11]《でんいん》が敗れようとする時にも、かの怪物が街なかにあらわれて、夜警の者はそれを見つけましたが、恐れて近寄りませんでした。果たして一年を過ぎないうちに、田は敗れました。

   四足の蛇

 舒州《じょしゅう》の人が山にはいって大蛇を見たので、直ぐにそれを撃ち殺しました。よく見ると、その蛇には足があるので、不思議に思って背負って帰ると、途中で県の役人五、六人に逢いました。
「わたしは今この蛇を殺しましたが、蛇には四つの足があるのです」
 そう言われても、役人たちには蛇の形が見えないのです。
「その蛇はどこにいるのだ」
「いるではありませんか。これが見えないのですか」
 その人は蛇を地面に投げ出すと、役人たちは初めて蛇の形を見ました。その代りに、今度は蛇を見るばかりで、その人の形
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