り返してみると、長さ五、六尺の大きい亀があらわれました。亀は生きているので、川へ放してやりました。
尼はその後、別条もありませんでした。
剣
建《けん》州の梨山廟《りざんびょう》というのは、もとの宰相|李廻《りかい》を祀《まつ》ったのだと伝えられています。李は左遷されて建州の刺史となって、臨川《りんせん》に終りましたが、その死んだ夜に、建安《けんあん》の人たちは彼が白馬に乗って梨山に入ったという夢をみたので、そこに廟を建てることになったのだそうです。
呉《ご》という大将が兵を率いて晋安《しんあん》に攻め向うことになりました。呉は新しく鋳《い》らせた剣を持っていまして、それが甚だよく切れるのです。彼は出陣の節に、その剣をたずさえて梨山の廟に参詣しました。
「どうぞこの剣で、手ずから十人の敵を斬り殺させていただきとうございます」と、彼は神前に祈りました。
その夜の夢に、神のお告げがありました。
「人は悪い願いをかけるものではない。しかし私はおまえを祐《たす》けて、お前が人手にかからないように救ってやるぞ」
いよいよ合戦になると、呉の軍は大いに敗れて、左右にいる者もみな散
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