っているようでした。そのうちに馬の用意も出来たので、人びとはその馬に乗って元の岸へ戻って来ましたが、初めから終りまで向うの人たちにはこちらの姿が見えなかったらしいということでした。
 これは作り話でなく、青州の節度使|賀徳倹《がとくけん》、魏博《ぎはく》の節度使|楊厚《ようこう》などという偉い人びとが、その商人《あきんど》の口から直接に聴いたのだと申します。

   蛇喰い

 安陸《あんりく》の毛《もう》という男は毒蛇を食いました。食うといっても、酒と一緒に呑むのだそうですが、なにしろ変った人間で、蛇食い又は蛇使いの大道《だいどう》芸人となって諸国を渡りあるいた末に、予章《よしょう》という所に足をとどめて、やはり蛇を使いながら十年あまりも暮らしていました。
 すると、ここに薪《たきぎ》を売る者がありまして、※[#「番+おおざと」、第3水準1−92−82]陽《はんよう》から薪を船に積んで来て、黄培山《こうばいさん》の下に泊まりますと、その夜の夢にひとりの老人があらわれて、わたしが頼むから、一匹の蛇を江西の毛《もう》という蛇使いの男のところへ届けてくれと言いました。そこで、その人は予章へ
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