、州郡の役人らにも処決することが出来ないので、遂に上聞《じょうぶん》に達することになって、呉を牢獄につないで朝廷の沙汰を待っていた。
 呉の親族らはそれを聞いて懼《おそ》れた。上聞に達する上は必ず公然の処刑を受けるに相違ない。そうなっては一族全体の恥辱であるというので、差し入れの食物のうちにかの※[#「魚+侯」、第3水準1−94−45]※[#「魚+夷」、第3水準1−94−41]魚の生き鱠《なます》を入れて送った。呉がそれを食って獄中で自滅するように計ったのである。しかも呉はそれを食っても平気であった。親族らはしばしばこの手を用いたが、遂に彼を斃《たお》すことが出来なかったのみか、却ってますます元気を増したように見えた。
 そのうちにあたかも大赦《たいしゃ》に逢って、呉は赦されて家に帰った。その後も子孫繁昌して、彼は八十歳までも長命して天寿をまっとうした。この魚はなま煎《に》えを食ってさえも死ぬというのに、生《なま》のままでしばしば食っても遂に害がなかったのは、やはり一種の天命というのであろうか。



底本:「中国怪奇小説集」光文社
   1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校
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