れがまた、見るみるうちに生長して花を着け、実を結んだ。木人はそれを刈って践《ふ》んで、たちまちに七、八升の蕎麦粉を製した。彼女はさらに小さい臼《うす》を持ち出すと、木人はそれを搗《つ》いて麺を作った。それが済むと、彼女は木人らを元の箱に収め、麺をもって焼餅《しょうべい》数枚を作った。
暫くして※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《とり》の声がきこえると、諸客は起きた。三娘子はさきに起きて灯をともし、かの焼餅を客にすすめて朝の点心《てんしん》とした。しかし趙はなんだか不安心であるので、何も食わずに早々出発した。彼はいったん表へ出て、また引っ返して戸の隙から窺うと、他の客は焼餅を食い終らないうちに、一度に地を蹴っていなないた。かれらはみな変じて驢馬となったのである。三娘子はその驢馬を駆って家のうしろへ追い込み、かれらの路銀《ろぎん》や荷物をことごとく巻き上げてしまった。
趙はそれを見ておどろいたが、誰にも秘して洩らさなかった。それからひと月あまりの後、彼は都からかえる途中、再びこの板橋店へさしかかったが、彼はここへ着く前に、あらかじめ蕎麦粉の焼餅を作らせた。その大きさは前に見たと
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