」、第3水準1−89−89]《おうようこつ》は各地を攻略して長楽《ちょうらく》に至り、ことごとく諸洞の敵をたいらげて、深く険阻《けんそ》の地に入り込んだ。
 欧陽※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]の妻は白面細腰《はくめんさいよう》、世に優れたる美人であったので、部下の者は彼に注意した。
「将軍はなぜ麗人を同道して、こんな蕃地へ踏み込んでお出《い》でになったのです。ここらの山の神は若い女をぬすむといいます。殊に美しい人はあぶのうございますから、よく気をお付けにならなければいけません」
 ※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]はそれを聞いて甚だ不安になった。夜は兵をあつめて宿舎の周囲を守らせ、妻を室内に深く閉じ籠めて、下婢《かひ》十余人を付き添わせて置くと、その夜は暗い風が吹いた。五更《ごこう》(午前三時―五時)に至るまで寂然《せきぜん》として物音もきこえないので、守る者も油断して仮寝《うたたね》をしていると、たちまち何物かはいって来たらしいので驚いて眼をさますと、将軍の妻はすでに行くえ不明であった。扉《とびら》はすべて閉じたままで、どこから出入りしたか判らない。門の外は嶮《け
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