何の祟りもなかったが、陳はあまりの不思議に渭南をたずねて、果たしてそこに劉という家があるかと聞き合わせると、その家は郊外にあった。主人の劉は陳に向ってこんな話をした。
「わたしはかつて弋陽《よくよう》の尉《じょう》を勤めていたことがあります。その土地には猿が多いので、わたしの家にも一匹を飼っていました。それから十年ほど経って、友達が一匹の黒い犬を持って来てくれたので、これも一緒に飼っておくと、なにぶんにも犬と猿とは仲が悪く、猿は犬に咬《か》まれて何処へか逃げて行ってしまいました」
李生の罪
唐の貞元年中に、李生《りせい》という者が河朔《かさく》のあいだに住んでいた。少しく力量がある上に、侠客肌の男であるので、常に軽薄少年らの仲間にはいって、人もなげにそこらを横行していた。しかも二十歳《はたち》を越える頃から、俄かにこころを改めて読書をはげみ、歌詩をも巧みに作るようになった。
それから追いおいに立身して、深《しん》州の録事参軍《ろくじさんぐん》となったが、風采も立派であり、談話も巧みであり、酒も飲み、鞠《まり》も蹴る。それで職務にかけては廉直《れんちょく》というのであるから
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