寺《うんげじ》に聖画殿があって、世にそれを七聖画と呼んでいる。
 この殿堂が初めて落成したときに、寺の僧が画工をまねいて、それに彩色画《さいしきが》を描かせようとしたが、画料が高いので相談がまとまらなかった。それから五、六日の後、ふたりの少年がたずねて来た。
「われわれは画を善く描く者です。このお寺で画工を求めているということを聞いて参りました。画料は頂戴するに及びませんから、われわれに描かせて下さいませんか」
「それではお前さん達の描いた物を見せてください」と、僧は言った。
「われわれの兄弟は七人ありますが、まだ長安では一度も描いたことがありませんから、どこの画を見てくれというわけには行きません」
 そうなると、やや不安心にもなるので、僧は少しく躊躇《ちゅうちょ》していると、少年はまた言った。
「しかし、われわれは画料を一文も頂戴しないのですから、もしお気に入らなかったならば、壁を塗り換えるだけのことで、さしたる御損もありますまい」
 なにしろ無料《ただ》というのに心を惹《ひ》かされて、僧は結局かれらに描かせることにすると、それから一日の後、兄弟と称する七人の少年が画の道具をたずさえ
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