声は室内へはいって、梁《はり》か棟《むなぎ》のあいだに在るかと思うと、死骸は起《た》って舞いはじめた。声はさらに表の方へ出ると、それに導かれたように死骸もあるき出して、ついに門外へ立ち去った。家内一同はおどろき懼《おそ》れたが、月の暗い夜であるので、追うことも出来なかった。
夜ふけに名主は外から帰って来て、その話を聞くと、彼はふとい桑の枝を折り取った。それから酒をしたたかに飲んで、大きい声で罵りわめきながら、墓場の森の方角へたずねてゆくと、およそ五、六里(六|丁《ちょう》一里)の後、柏の樹の森の上で又もやかの音楽の声がきこえた。
近寄ってみると、樹の下に明るい火が燃えて、そこに妻の死骸が舞っているのである。彼は桑の杖を振りあげて死骸を撃った。
死骸が倒れると、怪しい楽《がく》の声もやんだ。彼は死骸を背負って帰った。
底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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