である。父の英公《えいこう》は常に言った。
「この児の人相は善くない。後には我が一族を亡ぼすものである」
敬業は射術ばかりでなく、馬を走らせても消え行くように早く、旧い騎手《のりて》も及ばない程であった。英公は猟《かり》を好んだので、あるとき敬業を同道して、森のなかへはいって獣《けもの》を逐い出させた。彼のすがたが森の奥に隠れた時に、英公は風上《かざかみ》から火をかけた。父は我が子の将来をあやぶんで焼き殺そうとしたのである。
敬業は火につつまれて、逃るるところのないのを覚るや、乗馬の腹を割いてその中に伏していた。火が過ぎて、定めて焼け死んだと思いのほか、彼は馬の血を浴びて立ち上がったので、父の英公もおどろいた。
敬業は後に兵を挙げて、則天武后《そくてんぶこう》を討とうとして敗れた。
死婦の舞
鄭賓于《ていひんう》の話である。彼が曾《かつ》て河北に客《かく》となっているとき、村名主《むらなぬし》の妻が死んでまだ葬らないのがあった。日が暮れると、その家の娘子供は、どこかで音楽の声がきこえるように思ったが、その声は次第に近づいて庭さきへ来た。妻の死骸は動き出した。
音楽の
前へ
次へ
全41ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング