ょうはくざん》の西に夫人の墓というのがある。なんびとの墓であるか判《わか》らない。
魏《ぎ》の孝昭帝《こうしょうてい》のときに、令して汎《ひろ》く天下の才俊を徴《め》すということになった。清河の崔羅什《さいらじゅう》という青年はまだ弱冠《じゃっかん》ながらもかねて才名があったので、これも徴されてゆく途中、日が暮れてこの墓のほとりを過ぎると、たちまちに朱門粉壁《しゅもんふんぺき》の楼台が眼のまえに現われた。一人の侍女らしい女が出て来て、お嬢さまがあなたにお目にかかりたいと言う。崔は馬を下りて付いてゆくと、二重の門を通りぬけたところに、また一人の女が控えていて、彼を案内した。
「何分にも旅姿をしているので、この上に奥深く通るのは余りに失礼でございます」と、崔は一応辞退した。
「お嬢さまは侍中《じちゅう》の呉質《ごしつ》というかたの娘御《むすめご》で、平陵《へいりょう》の劉府君《りゅうふくん》の奥様ですが、府君はさきにおなくなりになったので、唯今さびしく暮らしておいでになります。決して御遠慮のないように」と、女はしいて崔を誘い入れた。
誘われて通ると、あるじの女は部屋の戸口に立って迎えた
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