暗い。途中で気がついてみると、馬上の主人はいつか行くえ不明になって、馬ばかり残っているのである。さあ大騒ぎになって、再び駅舎へ引っ返して詮議すると、西の部屋に白骨が見いだされた。肉もない、血も流れていない。ただそのそばに残っていた靴の一足によって、それが張の遺骨であることを知り得たに過ぎなかった。
 こうしてみると、それが普通の賊の仕業《しわざ》でないことは判り切っていた。駅の役人も役目の表として賊を捕えるなどと騒ぎ立てているものの、孟にむかって窃《ひそ》かにこんなことを洩らした。
「この駅の宿舎には昔から凶《わる》いことがしばしばあるのですが、その妖怪の正体は今にわかりません」

   小人

 唐の太和《たいわ》の末年である。松滋《しょうじ》県の南にひとりの士があって、親戚の別荘を借りて住んでいた。初めてそこへ着いた晩に、彼は士人の常として、夜の二更(午後九時―十一時)に及ぶ頃まで燈火《ともしび》のもとに書を読んでいると、たちまち一人の小さい人間が門から進み入って来た。
 人間といっても、かれは極めて小さく、身の丈《たけ》わずかに半寸に過ぎないのである。それでも葛《くず》の衣《きも
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