ろうと思ったので、別れを告げて帰って来た。その帰り路のところどころに目標《めじるし》をつけて置いて、黄は郡城にその次第を届けて出ると、時の太守|劉韻《りゅういん》は彼に人を添えて再び探査につかわしたが、目標はなんの役にも立たず、結局その桃林を尋ね当てることが出来なかった。
離魂病
宋《そう》のとき、なにがしという男がその妻と共に眠った。夜があけて、妻が起きて出た後に、夫もまた起きて出た。
やがて妻が戻って来ると、夫は衾《よぎ》のうちに眠っているのであった。自分の出たあとに夫の出たことを知らないので、妻は別に怪しみもせずにいると、やがて奴僕《しもべ》が来て、旦那様が鏡をくれと仰《おっ》しゃりますと言った。
「ふざけてはいけない。旦那はここに寝ているではないか」と、妻は笑った。
「いえ、旦那様はあちらにおいでになります」
奴僕も不思議そうに覗いてみると、主人はたしかに衾を被《き》て寝ているので、彼は顔色をかえて駈け出した。その報告に、夫も怪しんで来てみると、果たして寝床の上には自分と寸分違わない男が安らかに眠っているのであった。
「騒いではならない。静かにしろ」
夫は近寄
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