が、老人も小児も見るからに楽しそうな顔色であった。かれらは黄を見て、ひどく驚いた様子で、おまえは何処《どこ》の人でどうして来たかと集まって訊くので、黄は正直に答えると、かれらは黄を一軒の大きい家へ案内して、※[#「鷄」の「鳥」に代えて「隹」、第3水準1−93−66]を調理し、酒をすすめて饗応した。それを聞き伝えて、一村の者がみな打ち寄って来た。
かれら自身の説明によると、その祖先が秦《しん》の暴政を避くるがために、妻子|眷族《けんぞく》をたずさえ、村人を伴って、この人跡《じんせき》絶えたるところへ隠れ住むことになったのである。その以来再び世間に出ようともせず、子々孫々ここに平和の歳月《としつき》を送っているので、世間のことはなんにも知らない。秦のほろびた事も知らない。漢《かん》の興《おこ》ったことも知らない。その漢がまた衰えて、魏《ぎ》となり、晋《しん》となったことも知らない。黄が一々それを説明して聞かせると、いずれもその変遷に驚いているらしかった。
黄はそれからそれへと他の家にも案内されて、五、六日のあいだは種々の饗応を受けていたが、あまりに帰りがおくれては家内の者が心配するであ
前へ
次へ
全33ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング