なかった。しかも幾年の後に、その謎の解ける時節が来た。周は立身して臨賀の太守となったのである。
武陵桃林
東晋《とうしん》の太元《たいげん》年中に武陵《ぶりょう》の黄道真《こうどうしん》という漁人《ぎょじん》が魚を捕りに出て、渓川《たにがわ》に沿うて漕いで行くうちに、どのくらい深入りをしたか知らないが、たちまち桃の林を見いだした。
桃の花は岸を挟んで一面に紅く咲きみだれていて、ほとんど他の雑木はなかった。黄は不思議に思って、なおも奥ふかく進んでゆくと、桃の林の尽くるところに、川の水源《みなもと》がある。そこには一つの山があって、山には小さい洞《ほら》がある。洞の奥からは光りが洩れる。彼は舟から上がって、その洞穴の門をくぐってゆくと、初めのうちは甚だ狭く、わずかに一人を通ずるくらいであったが、また行くこと数十歩にして俄かに眼さきは広くなった。
そこには立派な家屋もあれば、よい田畑もあり、桑もあれば竹もある。路も縦横に開けて、※[#「鷄」の「鳥」に代えて「隹」、第3水準1−93−66]《とり》や犬の声もきこえる。そこらを往来している男も女も、衣服はみな他国人のような姿である
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