栄転することになった。鬼などというものが一体どこにいるのだ。この家も凶宅どころか、今後は吉宅となるだろう。誰でも勝手にお住みなさい」
そう言い終って、彼は起《た》って厠《かわや》へゆくと、その壁に蓆《むしろ》を巻いたような物が見えた。高さ五尺ばかりで、白い。彼は引っ返して刀を取って来て、その白い物を真っ二つに切ると、それが分かれて二つの人になった。さらに横なぐりに切り払うと、今度は四人になった。その四人が父の刀を奪い取って、その場で彼を斬り殺したばかりか、座敷へ乱入してその子弟を片端から斬り殺した。
李姓の者はみな殺されて、他姓の者は無事にまぬかれた。
そのとき李頤だけはまだ幼少で、その席に居合わせなかったので、変事の起ったのを知ると共に、乳母が抱えて裏門から逃げ出して、他家に隠れて幸いに命を全うした。
蛟を生む
長沙《ちょうさ》の人とばかりで、その姓名を忘れたが、家は江辺に住んでいた。その娘が岸へ出て衣《きもの》を濯《すす》いでいると、なんだか身内に異状があるように感じたが、後には馴れて気にもかけなかった。
娘はいつか懐妊して、三つの生き物を生み落したが、それは小
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