鰯《こいわし》のような物であった。それでも自分の生んだ物であるので、娘は憐れみいつくしんで、かれらを行水《ぎょうずい》の盥《たらい》のなかに養って置くと、三月ほどの後にだんだん大きくなって、それが蛟《みずち》の子であることが判った。蛟は龍《りゅう》のたぐいである。かれらにはそれぞれの字《あざな》をあたえて、大を当洪《とうこう》といい、次を破阻《はそ》といい、次を撲岸《ぼくがん》と呼んだ。
そのうちに暴雨出水と共に、三つの蛟はみな行くえを晦《くら》ましたが、その後も雨が降りそうな日には、かれらが何処からか姿を見せた。娘も子供らの来そうなことを知って、岸辺へ出て眺めていると、蛟もまた頭《かしら》をあげて母をながめて去った。
年を経て、その娘は死んだ。三つの蛟は又あらわれて母の墓所に赴き、幾日も号哭《ごうこく》して去った。その哭《な》く声は狗《いぬ》のようであった。
秘術
銭塘《せんとう》の杜子恭《としきょう》は秘術を知っていた。かつて或る人から瓜を割《さ》く刀を借りたので、その持ち主が返してくれと催促すると、彼は答えた。
「すぐにお返し申します」
やがて其の人が嘉興《かこ
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