どまることを願ったが、女は肯《き》かなかった。俄かに風雨が起って、彼女は姿をかくした。その後、彼は神座をしつらえて、祭祀《さいし》を怠らなかったが、その生活はすこぶる豊かで、ただ大いに富むというほどでないだけであった。土地の人の世話で妻を迎え、後に仕えて令長となった。
今の素女祠《そじょし》がその遺跡である。
千年の鶴
丁令威《ていれいい》は遼東《りょうとう》の人で、仙術を霊虚山《れいきょざん》に学んだが、後に鶴に化《け》して遼東へ帰って来て、城門の柱に止まった。ある若者が弓をひいて射ようとすると、鶴は飛びあがって空中を舞いながら言った。
「鳥あり、鳥あり、丁令威。家を去る千年、今始めて帰る。城廓|故《もと》の如くにして、人民非なり。なんぞ仙を学ばざるか、塚|※[#「田/(田+田)/糸」、第3水準1−90−24]々《るいるい》たり」
遂に大空高く飛び去った。今でも遼東の若者らは、自分たちの先代に仙人となった者があると言い伝えているが、それが丁令威という人であることを知らない。
箏笛浦
廬江《ろこう》の箏笛浦《そうてきほ》には大きい船がくつがえって水底に沈んで
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