にそれを奪い取った。つづいて他の女どもの衣をも奪い取ろうとすると、かれらはみな鳥に化して飛び去った。
 羽衣を奪われた一人だけは逃げ去ることが出来なかったので、男は連れ帰って自分の妻にした。そうして、夫婦のあいだに三人の娘を儲《もう》けた。
 娘たちがだんだん生長の後、母はかれらにそっと訊いた。
「わたしの羽衣はどこに隠してあるか、おまえ達は知らないかえ」
「知りません」
「それではお父《とっ》さんに訊《き》いておくれよ」
 母に頼まれて、娘たちは何げなく父にたずねると、母の入れ知恵とは知らないで、父は正直に打ちあけた。
「実は積み稲の下に隠してある」
 それが娘の口から洩《も》らされたので、母は羽衣のありかを知った。
 彼女はそれを身につけて飛び去ったが、再び娘たちを迎いに来て、三人の娘も共に飛び去ってしまった。

   狸老爺《たぬきおやじ》

 晋《しん》の時、呉興《ごこう》の農夫が二人の息子を持っていた。その息子兄弟が田を耕《たがや》していると、突然に父があらわれて来て、子細《しさい》も無しに兄弟を叱《しか》り散らすばかりか、果ては追い撃とうとするので、兄弟は逃げ帰って母に訴え
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