う時に、青蛙堂主人は一礼して今日《こんにち》の挨拶《あいさつ》に取りかかった。
「例会は大抵午後五時か六時からお集まりを願うことになって居りますが、こんにちはお話し下さる方々《かたがた》が多いので、いつもよりも繰り上げて午後一時からおいでを願った次第でございます。そこで、こんにちの怪談会はこれまでと少しく方針をかえまして、すべて支那の怪奇談を主題に致したいと存じます。しかし、支那のことはわたくしも何分不案内でございますので、その方面に詳しい方々に御出席をねがいまして、順々におもしろいお話を聞かせていただく筈《はず》でございますから、左様《さよう》御承知を願います」
 きょうの席上に新しい顔の多い子細《しさい》もそれで判《わか》った。主人はつづいて言った。
「支那の怪奇談と申しましても、ただ漫然と怪談を語るのも無意義であるというお説もございますので、皆様がたにお願い申しまして、遠くは六朝《りくちょう》時代より近くは前清《ぜんしん》に至るまでの有名な小説や筆記の類に拠《よ》って、時代を趁《お》って順々に話していただくことに致しました。ともかくもこれに因《よ》って、支那歴代の怪奇小説、いわゆ
前へ 次へ
全7ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング