。夫婦の相談はまずそれに一致した。
「それにしても、梅ちゃんも義助もあんまりじゃありませんか。」と、お此は腹立たしそうに言った。「江戸へ帰る途中で、お元の袂に鼠を見付けたことがあるなら、誰かがそっと知らせてくれてもいいじゃありませんか。お国が話してくれなければ、わたし達はいつまでも知らずにいるのでした。このあいだも梅ちゃんにきいたら、途中ではなんにも変ったことはなかった、なぞと白ばっくれているんですもの。」
「まあ、仕方がない。梅次郎や義助を恨まないがいい。誰よりも彼よりも、わたしが一番悪いのだ。私が馬鹿であったのだ。」と、七兵衛は諦めたように言った。「そんな者にだまされたのが重々の不覚で、今さら人を咎めることはない。みんな私が悪いのだ」
さすがは大家《たいけ》の主人だけに、七兵衛はいっさいの罪を自分にひき受けて、余人を責めようとはしなかった。
それから二日目の夜の更けた頃に、お元は身拵えをして七兵衛夫婦の寝間へ忍び寄ると、それを待っていた七兵衛は路用として十両の金をわたした。彼は小声で言い聞かせた。
「江戸にいると面倒だ。どこか遠いところへ行くがいい。」
「かしこまりました。おか
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