しいが……。こんな物を持っているようでは、ここへも来たことがあるのですか。
モウロ はい。来たことがあります。それはわたくしが貸して遣ったのです。
源五郎 では、今夜それを返しに来たところを、おまえが遠目に狼と間違えたのだ。さあ、それですっかり[#「すっかり」に傍点]訳がわかった。
五平 そう聞けば、別に不思議もないようだ。
寅蔵 こうなると、おいよさんは飛んだ災難で、気の毒であった。
五平 ふだんから近所でも評判の好い人であったのに、惜しいことをしたな。
寅蔵 まったく惜しいことをしたが、それでも他人の手にかかったのでないから、幾らか諦めもいいと云うものだ。
五平 諦めのいい事もあるまいが、まあ、まあ、そう思って無理に諦めるより外はあるまいよ。
源五郎 おいよさんはあの通りの貞女だから、粗相とわかれば何で亭主を恨むものか。
弥三郎 いや、恨まれても仕方がない。(死骸にむかいて。)これ、堪忍してくれ。夫婦になって足かけ十年、浪人暮らしの苦労をさせた上に、こんなことでお前を殺そうとは思わなかった。いつまで云っても同じことだが、おれは確に狼を撃った積りであったに……。どうしてこんな事になっ
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