と、家《うち》の人達が心配しましょう。今夜は早くお帰りなさい。あなたには教えたいことが色々ありますが……。又来てくれますか。
おいよ お救い下さると仰《おっ》しゃるならば、わたくしは必ず伺います。
モウロ では、明日《あした》来てください。あしたの午過ぎに……。
おいよ かしこまりました。
(モウロはマリアの像をささげて来て、テーブルの上に置く。)
モウロ これは尊いマリア様のお姿です。今夜はこれをあなたに貸してあげますから、若し狼の声がきこえたらば、一心にお祈りなさい。判りましたか。サンタ、マリアと呼んで祈るのです。
おいよ (低い声で。)サンタ、マリア……。
モウロ そうです、そうです。(十字架をかざして。)サンタ、マリア。
正吉 サンタ、マリア。
おいよ (ひざまずいて。)サンタ、マリア。
(三人は合掌す。虫の声。外には月のひかり明るくなる。)

          二

 同じく村はずれの草原。一面に芒《すすき》その他のあき草が伸びている。正面には山々見ゆ。薄月のひかり。虫の声。
(上のかたより正吉とおいよ出づ。)
おいよ 道はよく判っていますから、もうここらでお帰りください。
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