。)
おいよ (暗い中で。)おお、あかりが消えた。
[#地から1字上げ]――暗転――
二
おなじ村の川端。よきところに柳の大樹二三本ありて、岸には芦の花が夕闇に白く咲きみだれている。正面は川を隔てて山々みゆ。
(水の音。下のかたより源五郎とお妙、あとより昭全も出づ。)
源五郎 今もいう通りのわけで、一昨日の晩、昭全さんに飛び付いたのは、確におまえの姉さんだと云うのだ。
お妙 内の姉さんが狼のようになって、往来の人に飛び付くなぞと……。そんな事のあろう筈がないので……。(考える。)わたしにはどうしても本当とは思われませんよ。
源五郎 あんまり途方もないことで、おれにも本当とは思われないが……。それでもこの小僧さんは確に本当だというのだ。
昭全 (進みよる。)本当だ、本当だ。たしかに本当だ。わたしは松明の火で確に見たのだ。狼は火を恐れると云うことを聞いているので、わたしは松明をたたき付けて、一生懸命に逃げたのだ。
お妙 その狼の顔が内の姉さんに見えましたか。
昭全 わたしが何で嘘をつくものか。顔も姿もおまえの家《うち》の姉さんに相違なかったのだ。
お妙 まあ。
(
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