には自分よりも年下の、しかも大工の丁稚あがりを情夫《おとこ》にしているということが勤めする身の見得《みえ》にもならないので、お園は自分がいよいよ自由の身になるまでは、なるべく六三郎との仲をひとには洩らしたくないと思っていた。そんな噂を立てられては男の為にもならないと案じた。若い男があせって通って来るのを、女はかえって堰《せ》き止めるようにしていた。年下の男をもった為に、お園はいろいろの気苦労が多かった。遊びの諸払いも自分がいつも半分ずつ立て替えていた。
こういうじみな、隠れた恋を楽しんでいただけに、二人の仲はなんの破綻《はたん》を現わさずに続いていった。親方も薄うすは悟っていたものの、二人の恋がそれほどまでに根強くかたまっていようとはさすがに思いも付かなかったので、若い者の廓《くるわ》通い、ちっと位は大目に見て置いてやれと、別に小言らしいことも言わなかった。
寛延二年には六三郎が十九になった。お園は二十二の春を迎えた。
親方の家の裏には広い空地《あきち》があった。ここを仕事場としているので、空地の隅には材木を積んで置く木納屋《きなや》があった。納屋の角には六三郎が来ない昔から一本
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