した。
「おい、起きろ、起きろ。李太郎。」
「あい、あい。」と、李太郎は寝ぼけ声で答えたが、やはりすぐには起き上がりそうもなかった。
「李太郎、早く起きろよ。」と、堀部君はじれて揺り起した。「雪女が来た。」
「あなた、嘘あります。」
「嘘じゃない、早く起きてくれ。」
「ほんとうありますか。」ど、李太郎はあわてて飛び起きた。
「どうも戸の外に何かいるらしい。僕も一緒に行くから、戸をあけてみろ。」
「いけません、いけません。」と、李太郎は制した。「あなた、見ることよろしくない。隠れている、よろしい。」
暗がりで顔は見えないが、その声がひどくふるえているので、かれが異常の恐怖におそわれているらしいのが知られた。堀部君はその肩のあたりを引っ掴んで、寝床から引きずりおろした。
「弱虫め。僕が一緒に行くから大丈夫だ。早くしろ。」
李太郎は探りながら靴をはいて、堀部君に引っ張られて出た。入口の戸は左右へ開くようになっていて、まん中には鍵がかけてあった。そこへ来て、また躊躇《ちゅうちょ》しているらしい彼を小声で叱り励まして、堀部君はその扉をあけさせた。李太郎はふるえながら鍵をはずして、一方の扉をそ
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