まん中の土間へ焚き物の高梁《コーリャン》を取りに行った。土間の隅にはかの土竈《どべっつい》があって、そのそばには幾束の高梁が積み重ねてあることを知っているので、堀部君は探り足でその方角へ進んで行くと、切株の腰掛けにつまずいて危うく転びそうになったので、あわててマッチをすると、その火は物に掴《つか》まれたようにふっと消えてしまった。
その一|刹那《せつな》である。入口の戸にさらさらと物の触れるような音がきこえた。
三
暗いなかで耳を澄ますと、それは細かい雪の触れる音らしいので、堀部君は自分の神経過敏を笑った。しかもその音は続けてきこえるので、堀部君はなんだか気になってならなかった。さっきから吹きつけている雪の音は、こんなに静かな柔かいものではない。気のせいか、何者かが戸の外へ忍んで来て内を窺っているらしくも思われるので、堀部君はぬき足をして入口の戸のそばへ忍んで行った。戸に耳を押し付けてじっと聞き澄ますと、それは雪の音ではない。どうも何者かがそこに佇《たたず》んでいるらしいので、堀部君はそっと自分の部屋へ引っ返して、枕もとのピストルを掴んだ。それから小声で李太郎を呼び起
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