うと企てたが、その結果が予想以上に大きくなって、兄妹があまりに物凄い死に方をしたので、彼も急におそろしくなった。彼もおなじ宗教の信者であるだけに、いよいよその罪をおそろしく感じたかも知れない。そうして、兄妹の怨恨がかならず自分の上に報《むく》って来るというようなことを強く信じていたかも知れない。その結果、彼は赤座に導かれたような心持になって、ふらふらと僕をたずねて来た。彼がどうして僕の居処を知っていたかというのは、おなじ信者ではあり、且《かつ》は妹に結婚を申込むくらいの間柄であるから、赤座の家へも親しく出入りをしていて、僕が妙義の宿からたびたび送った絵葉書を見たことがあるかも知れない。僕が赤座の親友であることを知っていたかも知れない。自己催眠にかかった彼は赤座に導かれて赤座の親友をたずねるつもりで、妙義の山までわざわざ来たのだろう。
 ――と、こういうことになっているんだが、僕は催眠術をくわしく研究していないから、果してどうだか判らない。外国へ行ったときに心霊専門に研究している学者たちにも訊いてみたが、その意見はまちまちで、やはり正確な判断を下すまでに至らなかったのは残念だ。しかし学者
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