なかにさらされて、所詮《しょせん》わが命はないものと覚悟していると、やがて主人は城から退《さが》って来ました。主人は子細を聞いて、わたしを縁先へ引出させて、貴様のような奴を成敗するのは刀の汚れだから免《ゆる》してやるが、左様な不埒な料簡をおこすというのも、畢竟《ひっきょう》はその眼が見えるからだ。今後ふたたび心得違いをいたさぬように貴様の眼だまをつぶしてやると言って、小柄《こづか》をぬいてわたしの両方の眼を突き刺しました。」
 今もその眼から血のなみだが流れ出すように、座頭は痩せた指で両方の眼をおさえた。平助もこのむごたらしい仕置《しおき》に身ぶるいして、自分の眼にも刃物を刺されたように痛んで来た。彼は溜息をつきながら訊いた。
「それからどうしなすった。」
「にわか盲にされて放逐されて、わたしは城下の親類の家へ引渡されました。命には別条なく、疵の療治も済みましたが、にわか盲ではどうすることも出来ません。宇都宮に知りびとがあるので、そこへ頼って行って按摩の弟子になりまして、それからまた江戸へ出て、ある検校《けんぎょう》の弟子になりました。二十二の春から三十一の年まで足かけ十年、そのあいだ
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