は無駄だからやめろというのです。それだけならばよかったのですが、さぞ寒いだろう、ここへ来て炬燵にあたれと言ってくれました。相手は冗談半分に言ったのでしょうが、それを聞いてわたしは無暗に嬉しくなりまして、からだの雪を払いながら半分は夢中で縁側へあがりました。灰のような雪が吹き込むので、すぐに雨戸をしめて炬燵のそばへはいり込むと、御新造はわたしの無作法に呆れたようにただ黙ってながめていました。まったくその時にはわたしも気が違っていたのでしょう。」
 死にかかっている座頭の口から、こんな色めいた話を聞かされて、平助じいさんも意外に思った。

     三

 座頭はまた語りつづけた。
「わたしはこの途《ず》を外してはならないと思って、ふだんから思っていることを一度にみんな言ってしまいました。家来に口説かれて、御新造はいよいよ呆れたのかも知れません。やはりなんにも言わずに坐っているので、わたしは焦れ込んでその手を捉えようとすると、御新造は初めて声を立てました。その声を聞きつけて、ほかの者も駈けて来て、有無《うむ》をいわさずに私を縛りあげて、庭の立木につないでしまいました。両手をくくられて、雪の
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