たらめに薬をやるよりは、一応その本人の様子を見て、親しくその容体をきいた上で、それに相当しそうな薬をあたえた方が安全である。殊にその当時は僕たちもまだ若かったから、その病人が十七の娘であるというので、どんな女か見てやりたいというような一種の興味も伴っていたのであった。
「どんな女だろう。まだ若いんだぜ。」
「一体なんの病気だろう。」
「婦人病だと困るぜ。そんな薬は誰も用意して来なかったからな。」
「悪くすると肺病だぜ。支那では癆《ろう》とかいうのだそうだ。」
そんな噂をしているうちに、僕はかの「家有妖」の一件を思い出した。
「門の前の井戸で水を汲んでいた男……あの男の話によると、ここの家《うち》には化物が出るか、なにかの祟りがあるか、なにしろ怪しい家らしいぜ。あの男は家有妖と書いて見せたよ。」
「むむう。」と、ほかの三人も首をかしげた。
「それじゃあ、その娘というのも何かに取憑《とりつ》かれてでもいるのかも知れないな。」とT君は言った。
「そうなると、我れわれの薬じゃあ療治は届かないぞ。」とM君は笑い出した。
僕たちも一緒に笑った。ふだんならばともかくも、いわゆる砲煙弾雨《ほうえん
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