ったので、大蛇は蟻《あり》にさいなまれるみみず[#「みみず」に傍点]のようにのたうち廻って、その長いなきがらを朝日の下にさらした。
それと同時に、蛇吉も正気をうしなって大地に倒れた。
彼は庄屋の家《うち》へかつぎ込まれて、大勢の介抱をうけてようやくに息をふき返した。別に怪我をしたというでもないが、彼はひどく衰弱して、ふたたび起きあがる気力もなかった。
蛇吉は戸板にのせて送り帰されたときに、お年は声をあげて泣いた。村の者もおどろいて駈け付けて来た。自分が無理にすすめて出してやって、こんなことになったのであるから、庄屋はとりわけて胸を痛めて、お年をなぐさめ、蛇吉を介抱していると、彼は譫言《うわごと》のように叫んだ。
「もういいから、みんな行ってくれ、行ってくれ。」
彼は続けてそれを叫ぶので、病人に逆らうのもよくないから一とまずここを引取ろうではないかと庄屋は言い出した。親類の重助をひとりあとに残して、なにか変ったことがあったらばすぐに知らせるようにお年にも言い聞かせて、一同は帰った。
朝のうちは晴れていたが、午後から陰って蒸し暑く、六月なかばの宵は雨になった。お年と重助はだまって
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