柳 お前さん……。どうしたのよ。
(李は二人に介抱されながら土間に倒れて、持っているピストルを取落す。ランプは明るくなりて、青蛙は光の消えたるままに残っている。薄く雨の音。入口の扉を叩く音。高田は気がついて見返る。)
高田 あ、誰か又来たようだ。
(高田は行きかかれば、柳は恐るるように引き留めて、行くなというに、高田はすこしく躊躇する。再び扉をたたく音。高田は又行きかかるを、柳は又ひき留める。暫時の沈黙。三たび扉を叩く音。)
高田 だれか村の人が来たんでしょう。それとも警察の人か。(柳を押退けて。)なに、大丈夫。怖いことはありませんよ。
(高田は思い切って行きかかれば、柳は土間に落ちたるピストルを拾い取って渡す。高田はピストルを手に持ちて扉をあけると、第一幕の旅の男、小さい革の箱をかかえ、片手に竹笠を持ちて入り来る。)
柳 (すかし見て。)あ、おまえさんは……。あの人だ、あの人だ……。
旅の男 はい、十五夜の晩に来た旅の者です。
高田 では、青蛙神の蝦蟆を持ち歩いている人か。
旅の男 そうです。(土間の青蛙に眼をつける。)おお、やっぱりここにいましたか。私はこれを探しに来たのです。(男
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